武烈紀を読む

日本書紀第16巻に当たる『武烈天皇紀』は、残虐・変態的な描写に溢れている。
 
 『書紀』は天皇家の統治の正当性と一系性を謳うものであり、そのことを対外的に、具体的には大陸の王朝へ知らしめる役割もあったはずである。 

 それにもかかわらず、このような暴君として表現したのは、よく言われるように次の継体天皇で武烈天皇までの系譜とは全く違う家系(王統)に移り、その一系性が破られたことを説明(というより申し開き)するがために、ことさら悪しざまに加筆・粉飾した、のであろう。

 『史記』による「殷本紀」の最後の王「紂王」の暴虐・非道の数々に倣ったのは間違いの無いところで、向こうは新王朝である周に取って代わられたのであった。


 
  父母     父:仁賢天皇(億計王=市辺押磐別皇子の長男)
          母:春日オオイラツメ皇女(雄略天皇の娘)

 和風諡号   小泊瀬稚鶺鴒皇子(オハツセワカサザキ皇子)

   宮      泊瀬列城宮(はつせのなみきのみや)

  皇后      春日イラツコ(家系は不明)

  皇子・皇女   なし


  墳墓      書紀には記載がなく、ただ「列城宮に崩ず」と書く。
          古事記では片岡石坏岡
(いしつきのおか)陵で、顕宗天皇と同じ



     < 年代順の事績 >

事     績   備 考
即位前紀 ・大臣・平群真鳥が国政を専横していた。
・オハツセ皇子が物部アラカビの娘カゲヒメを求めたところ
 先に平群真鳥の子・鮪(シビ)に取られてしまう有り様で
 見かねた皇子は大伴金村に加勢を頼み、シビを殺す。
・金村は12月までに平群真鳥をも誅伐し、オハツセ皇子に
 即位を促す。
 元 年  春日郎女を皇后とし、即位。太歳は己卯(つちのと・う)。  西暦499年
 2 年 ・妊婦の腹を割き、胎児を見る。    500年
 3 年 ・人の生爪を抜いて、イモを掘らせる。    501年
 4 年 ・人の頭髪を抜いて木に登らせ、その木を切り倒して転落  死させて悦ぶ。
・百済の末多王が無道・暴虐だったので、国人は嶋王に替 えた。
この年、の初代武帝が即位。「倭王武を征東大将軍に進めた」とある。
 5 年 ・人を貯水池の排水路に流し入れ、流れてくるところを出口 で待ち、三叉の矛で刺し殺した。    503年
 6 年 ・小泊瀬舎人を置く。    504年
 7 年 ・人を木に登らせ、弓で射って笑う。
・4月、百済王が斯我君を遣わし、貢献する。
   505年
 8 年 ・女を裸にして、馬の交尾を見せ、陰部の濡れ具合で殺し  たり奴婢にしたりした。
・この年、百姓の飢え凍えるのもかまわず、暖衣・美食が横 行する。昼夜を構わず酒宴が催され、錦織物が敷物にな ったり、贅沢三昧を行うものが多かった。
・冬12月8日、天皇崩御。
   506年

(注)
平群真鳥・・・平群氏は大和平野の北西部に根拠地を持つ豪族。出自は『古事記』の「孝元記」によれば、建内(武内)宿禰の子「平群都久(づく)宿禰」(『書紀』では平群木兔宿禰)。武内宿禰の8人の子孫のうち、大王クラスに昇ったのは、葛城氏・平群氏・蘇我氏である。
 葛城氏は仁徳天皇の皇后イワノヒメを出して、5世紀前半はその皇子が軒並み天皇となったが、雄略天皇によってつぶされた。雄略天皇のあと、今度は平群氏が大勢力となったが、武烈天皇になってすぐに没落した。
 残るのが蘇我氏で、蘇我氏は平群氏を滅ぼした大伴金村が、対百済外交で失策したのを契機に、急速に伸びていくことになる。

梁王朝の「武」への除正・・・『梁書』によれば、宋、斉に続いて南朝を継いだ梁の高祖(初代)武帝が即位した西暦502年に、「倭王武を征東大将軍に進める」とあり、これが歴史学上の難題となっている。
 というのは、倭王武といえば雄略天皇を指すのだが、雄略天皇は『古事記』では489年、『書紀』では478年に死亡しているのに、502年に新たに「征東大将軍」に除正されるのはおかしい、年代が合わないのである。
 これに対して「即位の時の朝貢国への除正は自動的なもので、前代に就けた地位に上乗せすることで、宗主国の威厳を示したのだろう」とするもっともらしい見解がある。しかし武帝の長男「昭明太子」が著した『文選』(モンゼン:30巻)には「倭国使」のイラストが載せられてあり、即位当時の502年に倭国から朝賀の使いがやって来たことは明らかである。
 そうすると年代から言って倭国使を出したのは武烈天皇であり、その武烈に対しての除正であると見るのが順当だと思う。
 武烈天皇の和名は「小泊瀬」であり、これは雄略の「大泊瀬」を念頭に置いた名で、武烈天皇も実は「倭王武」として上表文をあらわした可能性があるのではないだろうか。

  
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